部屋の中でふっと振り返ると猫がものごっつい可愛らしいポーズで見上げている。
うおおおおっ、なんだってあんたはこんな誰も見てないところで可愛くしてるの、たまたまアタシが振り向いたから良かったようなもののそうじゃなかったらこの「可愛い」は誰にも気付かれないまま時空のモクズになってしまうところだったのよ、とか言いながら猫の腹を撫でくりまわす。
今日もどこかで見てないところで。ねねさんが可愛いポーズを取っている。誰も知らない。ああもったいない。
人が知ろうと知るまいと、可愛いものも美しいものも存在する。誰も近寄れない断崖絶壁の岩の上に咲く花もあるだろう、地中深くに埋もれた水晶洞窟もあるだろう。
人の目には不可視の光の波長の生きものや耳に知覚できないさえずりの鳥もいるかもしれない。
知る由のない賑やかさを想像すると宇宙のように底がない。
カフェにて、隣の席に男子二人組。ずっと恋バナ系。
「俺の前の彼女がメガネしだしたんだけどさあ。スッピンでメガネすると光浦にちょっと似てたんだわ」
「メガネ?いいじゃん、萌え萌えじゃん、メガネでちょっと口紅つけてたらすっげー萌えだわ俺」
「正直、俺はイヤだったんだわ…メガネはしてほしくなかった…」
その後過去の女性経験に話がスライド。
「出会い系で一度だけ相手と会ったことあるけどさー、すっげーブスでソッコー車でホテル連れてかれて超エッチ好きで、もーやっとれんかったて。まいるわ」
「ブスでエッチ大好きって許せんことない?」
「わかるわかる、許せん。でもブスでマグロはもっと許せん」
「わかるわかる」
…お若い男子はブスに容赦ねえなあ、と思った。
でも片方が拒絶するメガネ女子(光浦似)が片方には「萌え萌え」だったりするわけだから、「ブス」の線引きもだいぶ違いそうだなーと思った。
萌えの受容体人それぞれ。「棲み分け」の本能かもしらん。