昔から、歩きながら缶コーヒーを飲むことができない。
いちいち立ち止まって飲む。
一人ならいいんだけど、ツレがいると、そのぶん数歩遅れる。
でテケテケ小走りに追いかけることになる。
「何?なんかあった?」
「いや、歩きながら缶コーヒー飲めないんで」
「え?なんで?」
「なんでって…同時にできないんですよ。立ち止まらないと飲めない」
「えー、うそ、なんで?普通できるでしょ。おかしいよそれ」
たいした弱点ではないけど田岡さんにニヤリとされると「しまった」と思うわね。
「足元見えてないと歩けないんです」
「歩いてるときいちいち足元なんか見ないよ」
「見てるんすよ、アタシは。見えてないと歩けない」
「可笑しいよそれ。ほかにもあるんでしょ、同時にできないこと」
「ありません。歩き缶コーヒーだけ」
「いや、絶対ほかにもあるね。おっかしいの。俺なんか焼きそば食べながら運転できるよ」
「やめてください」
田岡のおいちゃんにニヤニヤされながら缶コーヒー片手に歩いた春の日であった。
ぼのぼのが「もの食べるときはどうしても目をつぶってしまう」って言ってたの思い出したよ。
そうなってしまう。
なぜでも。
どうしてでも。