2020年4月28日火曜日

蟄居中

「ポジコロ入院記」

すげえ怖かった。寝る前に読むものじゃなかった。
でも面白い、というか、知れないことが知れて興味深くあった。

新型コロナの特徴に「急激に悪化する」というのがあって志村けん死んだ時にもよく言われてた。志村以前に「コロナを移してやるおじさん」が愛知県で出た時、居酒屋とフィリピンパブ梯子してカラオケ熱唱してたおっさんが、持病があったとはいえわずか2週間で死んだと聞かされてこの病気の怖さを知った、個人情報に配慮して患者の詳細は伏せられることが多いので、流行初期のうちにあれだけ詳細が知れたのは貴重ではある。

しかしあんな、「陽性出ちゃったから念のために入院しておきましょうね」みたいな状態から2週間で人は死ぬものなのか?という、病気の進行の様子がこの入院記を読むと詳しくわかる。
何が怖いって、一度症状が落ち着いてある程度時間的経過を置いてから再発熱するあたりだよ、もうこれほんとに的確に殺しにきてるとしか思えない。背後にまわりこんで殺す、的ないやらしい振舞い。なんだこのウイルス。ウイルスなんて、細菌と違って自己複製も碌にできねえ半人前のくせによう。

著者が医療関係者なのでところどころ薬効機序やらの解説が入るのもいいアクセントになってると思います。4/28の時点でまだ入院は続いているのでどきどきしながら追っかけています。食事が改善されるといいなあ。

2020年4月21日火曜日

吐きだす

出勤禁止、在宅勤務不可(派遣なので)、外出自粛、のないない尽くしない尽くし〜で閉塞状態のわしわしである。
いや、職場は正しく危機感を持った良い会社。もう年明けくらいから除菌アルコールが玄関ど正面に置かれていて入館時手指消毒必須にしてたし、出勤禁止のお達しも実は3月から政府の通達に合わせて3回くらい出てた。年度末の工期ラッシュでお客さんが「延ばして良いよ」って言ってくれなかっただけ、会社は「お客様の了解が得られ次第自宅勤務に切り替えてください」ってずっと言ってた。
会社は正しい良い会社だが、自宅待機初日は社会から疎外されている感がきついなと思った、不要不急の存在であることがバレてしまった、という。

年末からこっち忙しすぎたからね、休めって星回りだったんだと思おう。終わりが見えないのがまた怖いんだけど。

食料品を買い出しに行って前職の同僚に会う、あちらも緊急事態宣言でやっと上が動いて、昼に突然「明日から半数ずつ交代勤務にします」と通達があったそうだ。今彼女がいるのは法人営業部門のテレアポである。不要不急にも程がある。それでも部門長はきっと「ウチも思いきったコロナ対策を講じましたよ」とかドヤ顔してるんだろうな、というところまで絵面が浮かんだ。気をつけていればもらい事故なんかに遭わないって言い切った課長もいたな。古くて大きな会社は変。むりやり転職しといて本当に良かった、と思う。

正常化バイアスとかいろいろあるのは知識として知ってるけど、事態を矮小化しよう矮小化しようとする人達ってなんなんだろう。
まだウイルスの特徴もよくわかってない最初のうちに「たいして感染力は無い」って言ってた有識者の人とか、人との接触を8割抑える必要はない、緊急事態宣言を全国に広げる必要はなかったと言い出す学者とか、3密がダメで2密まではいいんでしょ?と自由な解釈でレジャーに出かける人とか、なんか、正常化バイアスっていうよりあれ、ロイコクロリディウムに寄生されたでんでん虫か?もう脳を乗っ取られてウイルスが増殖する方へ拡散する方へ行動するように操られちゃってるのか?と、訝しむ。

先入観のないデータと統計ってとても大事。

自宅待機前は、毎日歩いて通勤してたので公共交通機関使わない、お弁当作ってって自分のデスクで食べるから会食のリスクも無い、業務上のやり取りも直属の上長と担当者と数回話す程度、あと帰り際に特定の社員さんにちょっかいかけるくらい、帰途ドラッグストアかスーパーで買い物して帰る、という生活だったので、1日に接触する人数がだいたい5人以下だった。ドラッグストアとスーパーが一番でんじゃあぞーんかもしれん。で、これを8割減らす、だから、2日に1回近所へ食料品買いに行くくらいにしてるけど、どうだろう。それだってネットスーパー使えば出なくて済むのだな。

オンライン飲み会、は、一度参加した、今は微妙かなあ。蟄居生活がも少し続いたらこういうのもありがたく感じるだろうな、という感想。まだ今は代替品、代理満足、っていう感じがしたのだ。あと手持ち無沙汰で常に飲むか食べるかし続けてしまうのだ。まあつまり個人の感想です。

忙しく仕事してた時に思うことは、年度が明けて仕事が落ち着いたら有給とって台湾に行きたいわん、だったのだな、せめての朝ごはんを鹹豆漿にして台湾気分にしてみる。あと油條も食べたい。葱花巻食べたい。食べることばっかか。森林鉄道乗りたい。白菜とか角煮とかの国宝見たい。今度総督府行ったら蔡総統の萌え絵グッズ買うんだ。
今度、が、いつになるかはわからないけど、楽しみはあるさ。

人との接触を減らしまくって短期決戦で落ち着いてくれればいいけど、なんか、経産省あたりがすぐ骨抜きの対策にしようとしてくるし、長引くのかなあ、長引いた方がきついのになあ、インフルのウイルスは湿度で失活するけど今回のはそれも無いというし、梅雨だの猛暑だのに突入したら日頃マスクし慣れてない人達が暑くてマスクなんかやっとれんって言いだすし在宅勤務の各家庭でエアコンフル稼働したら昼の電力ピークやべえし大型台風とか想像もしたくないし、なんとか梅雨前あたりで感染拡大が落ち着くかそれともウイルスが弱毒性に進化してくれないかなあ、もう、神頼み。

虫封じ、悪疫退散、切実だな、何百年経ってもテクノロジーが進化しても、人類の脅威はそんな変わんないんだな。それはそうか。スペイン風邪からこっち百年、運が良かっただけで、ずっとそういうものなのね。

2020年4月7日火曜日

IN PLAGUE TIME

流行り病。岡崎京子の作中の引用で知られてるウィリアム・ギブスンの詩を思い出す。引用元は、初出誌の版元の京都書院が倒産してるので目にした人はあまり多くない。と思う。元々3章から成る。引用されていたのは最終章。


愛する人(みっつの頭のための声)
ウィリアム・ギブスン
黒丸尚 訳

I
明かりの下

マシーンが夢見る

憶えている

雑踏を

渋谷
タイムスクェア
ピカデリー

憶えている

駐車中の自転車
草の競技場
土に汚れた噴水

夜明けへとゆるやかに落ちていく中

愛する人の腕の中

思い出される

夜に沿って
ハイアットの洞穴の中
空港の半減期の中
ハロゲン狼の
刻の中

思い出される刻

ラジオの沈黙の中

ラジオの沈黙
ラジオの沈黙
ラジオの沈黙

II.
たかがミステリの歴史
たかが人間がどう迷うか、
だろうが
ただ、どうしても迷うのさ、
現に
どこの街だろうと、

たかが物事の流れ
ただの
交差点の雑踏
ただの舗道に落ちる雨
それが歴史というにすぎない、
実際

父はそうして迷った
母も同じ
母というのは、
実際そういうもの、
物事のありかたとして
ミステリのありかたとして、
ということ
でも狼たちも暗い公園で迷う
坊やたちも同じ
これは別のありかた

近頃の落ちかた

III.
この街は
悪疫のときにあって
僕らの短い永遠を知っていた

僕らの短い永遠

僕らの愛

僕らの愛は知っていた
街場レヴェルの
のっぺりした壁を

僕らの愛は知っていた
沈黙の周波数を

僕らの愛は知っていた
平坦な戦場を

僕らは現場担当者となった
格子を
解読しようとした

相転移して新たな
配置になるために

深い亀裂をパトロールするために

流れをマップするために

落ち葉を見るがいい
涸れた噴水を
めぐること

平坦な戦場で
僕らが生き延びること




原題"The Beloved"、英語圏でしばしば墓碑銘に刻まれる言葉であること思うと「愛する人」のほかに含む意味があるとわかる。沈黙するラジオ、涸れた噴水、平坦な戦場、すべて墓碑のメタファである。